ペットと高齢者の共生で健康と幸福を実現する方法
高齢者がペットと共生することで様々なメリットがあります。
しかし、高齢者が安心してペットと共に暮らせる環境を作るためには、社会全体での協力が不可欠です。
地域コミュニティや支援団体の連携を強化し、ペットと高齢者が共に幸せに暮らせる社会を目指す取り組みが期待されています。
ここでは、高齢者とペットの共生がもたらすメリットや課題、そして支援体制の整備について詳しく探っていきます。
高齢者とペットが共に豊かで幸せな生活を送るためのヒント、社会全体でその実現を目指すための取り組みを紹介します。
高齢者にとってのペットの重要性
ペットが高齢者にもたらす共生効果とは?
ペットがいることで、夫婦間の会話が増え、コミュニケーションが活発になります。
高齢者がペットを飼うと、認知症の発症率が低下すると言われています。
また、ペットは飼い主自身にも癒し効果をもたらします。
なぜ、このような効果があるのかというと、ペットと触れ合うことでリラクゼーション効果や安心感、信頼感が得られるからです。
1. 認知症の予防
東京都健康長寿医療センター(2023年10月24日)の研究発表では、犬を飼っている人は、飼っていない人に比べて認知症の発症リスクが40%低いことがわかりました。
特に、運動習慣がある人や社会的に孤立していない人は、認知症の発症リスクがさらに低いことが明らかになっています。
一方、猫を飼っている人と飼っていない人の間には、認知症の発症リスクに大きな差は見られませんでした。
日常的に犬の世話をすることで、身体活動や社会参加が維持されるため、犬を飼うことが認知症の発症リスクを低下させていると考えられます。
2. 健康へのポジティブな影響
ペットと暮らすことで、さまざまな健康効果が期待できます。
例えば、犬を飼っている場合、毎日の散歩が運動習慣を促進し、身体の健康維持に役立ちます。
また、ペットを撫でることでストレスが軽減され、血圧が下がるなどのリラックス効果もあります。
3. 精神的なサポート
ペットは、高齢者にとって心の支えになります。
一緒にいることで孤独感が和らぎ、精神的な安定をもたらします。
ペットの無条件の愛情や寄り添う姿勢は、高齢者にとって大きな癒しとなり、日々の生活において精神的な安らぎになります。
4. 社会的なつながりの増加
ペットを通じて、近所の人々や他のペットオーナーと交流する機会が増えます。
特に犬の散歩中に他の犬の飼い主と話すことで、新しい友人ができたり、地域社会とのつながりが深まります。
これにより、社会的な孤立を防ぎ、充実した生活を送ることができます。
5. 生活のリズムと目的
ペットを飼うことで、毎日の生活に規則正しいリズムが生まれます。
ペットの世話をすることで、日々のルーチンが確立され、高齢者にとっての生活に目的や意味が生まれます。
ペットの食事や散歩、遊びなど、日常的な世話を通じて生きがいを感じることができます。
その他、ペットと暮らすことで、特に高齢者の医療費を抑制する効果があることもわかっています。
例えば、ドイツでは年間約7500億円、オーストラリアでは約3000億円の医療費削減効果があり、これを国全体で見ると、約8~10%の削減効果があります。
はっきりとしたデータはありませんが、日本に当てはめると約4兆円の医療費削減につながる計算になるそうです。
飼主の死亡または入院で収容・処分されるペット
ペットは高齢者に多くのメリットをもたらします。
心に癒しを与え、身体的な活動を促進し、孤独感を和らげる存在です。
しかし、こんな問題も発生しています。
犬・猫の殺処分事情
環境省の統計資料「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(対象期間:令和4年4月1日~令和5年3月31日)によると、平成16年度の犬猫の殺処分率は94.36%でした。
収容数:約42万頭 殺処分数:約39万5千頭
令和4年度では殺処分率は22.55%です。
殺処分数:約1万2千頭
犬猫の殺処分は約32分の1に減っています。
しかし、平成29年度から令和4年度のデータを見ると、犬猫の収容所への持ち込み数は多少は減っていますが、飼い主からの持ち込み数は大きな変動がなく、一定の範囲内で推移しています。
動物愛護管理の取り組みが進展している一方で、飼い主からの持ち込みが依然として課題です。
なぜ飼主は収容所へ持ち込むのか
1. 飼主さんの死亡や入院のため
高齢の飼い主さんが入院や施設に入る、あるいは亡くなることでペットの世話をする人がいなくなることが最も多い理由です。捨てられている犬猫の7割が高齢者の飼い主によるものだそうです。
2. 飼主さんの経済的理由のため
ペットの飼育にかかる費用が負担になり、飼い続けることが難しくなったため。
3. 飼主さんの引っ越しのため
新しい住居や高齢者施設でペットを飼うことができない場合や、引越し先がペット禁止の物件であるため。
高齢者がペットと共生しにくい環境の現状
平成25年(2013年)に改正された動物愛護管理法によって動物の終生飼養を義務化しました。
これにより、動物の飼い主はその動物が命を終えるまで適切に飼養する責任を負うことが明確にされました。
改正の背景と目的
この法律改正の背景には、近年、動物は飼い主に潤いと喜びをもたらす存在ですが、動物虐待や不適切な取扱いによる問題が依然として多く存在します。
動物の飼い主は、その動物が命を終えるまで適切に飼養する「終生飼養」の責任があることが法律上明確にされました。
具体的には、飼い主が動物に対する終生飼養の責任を持つことで、動物が捨てられたり虐待されたりすることを防ぎ、安心して暮らせる環境を目指しています。
高齢者とペットの共生の課題
この法改正には高齢者がペットと共生することを困難にする側面もあります。
高齢者は健康状態や経済的な事情から、ペットの終生飼養を続けることが難しくなる場合があります。
例えば、高齢者の方が「一人では寂しいからペットショップであの仔を家族に迎えたいな…」や「一人では寂しいから保護犬の里親になろうかな…」と思っても、これを受け入れられない環境になっています。
多くのボランティア団体や動物愛護施設では、飼い主の年齢が60歳以上の場合、動物の譲渡を制限する取り決めを設けているからです。
一方、ペットショップは商売であるため、年齢に関係なく誰にでも販売しています。
その他、飼主の死亡、病気や入院などの状況により、ペットの世話ができなくなることがあります。
その際、新たな飼い主を見つける必要がありますが、これは容易ではありません。
こうした問題が浮上する中で、高齢者がペットを飼い続けるための支援体制が不足している現状があります。
ペットと共生するための解決策と支援
この問題に対して、いくつかの解決策が提案されています。
地域の動物愛護団体やボランティアグループが高齢者をサポートする取り組みが進んでいます。
例えば、ペットの一時預かりサービスや高齢者が飼えなくなった場合の新しい飼い主を見つけるためのネットワーク構築などです。
また、ペットのための信託制度が検討されており、高齢者が安心してペットと暮らせるような仕組み作りが求められています。
これにより、高齢者が自分の体調や生活環境の変化に対処しつつ、ペットを手放すことなく共に暮らし続けることが可能となります。
ペット信託については、「身寄りのない高齢者が亡くなってもペットが安心できる終活・相続方法とは?」をご覧ください。
最後に
動物愛護管理法の改正は、動物の福祉向上に大きく寄与していますが、高齢者がペットと共生するための支援体制の整備も同時に必要です。
高齢者が安心してペットと共に暮らせる環境を作るためには、社会全体での協力が不可欠です。
地域コミュニティや支援団体の連携を強化し、ペットと高齢者が共に幸せに暮らせる社会を目指す取り組みが期待されています。
今後も、高齢者とペットが安心して共生できる環境づくりが進められることが望まれます。