身寄りのない高齢者の延命治療とは?
ターミナルケア(終末期医療)とは、余命宣告を受けた方や回復の見込みがない終末期の患者に対して提供される、身体的・精神的な苦痛を取り除き、平穏に過ごす支援を含む医療ケアのことをいいます。
医療機関などで終末期に病状の回復が見込めない場合、患者ご本人やその家族は命を延ばすための「延命治療」を行うかどうかの選択を迫られることがあります。
終末期になると、多くの方が自分の口からどのような医療を望むかを言えなくなり、代わりに家族と医療従事者が医療の内容を決めています。
そのため、多くの高齢者が高カロリー輸液、人工呼吸器、人工透析で延命されています。
患者本人が意思を表明できる状態であるうちに、終末期の対応について話し合い、意思を明確にしておくことが非常に重要です。
延命治療は行わず「自然にまかせてほしい」が91.1%
内閣府が発表した『平成29年版高齢社会白書(全体版)』によると、65歳以上で「少しでも延命できるよう、あらゆる医療をしてほしい」と回答した人の割合は4.7%と少なく、一方で「延命のみを目的とした医療は行わず、自然にまかせてほしい」と回答した人の割合は91.1%と9割を超えました。
65歳以上の人々の圧倒的多数が、「延命のみを目的とした医療は行わず、自然にまかせてほしい」というスタンスを支持していることが明らかです。
この考え方は、個人の尊厳を尊重し、過剰な医療介入から逃れ、穏やかな終末期を迎えることを望んでいることを示しています。
同時に、少数派ながらも、「少しでも延命できるよう、あらゆる医療をしてほしい」という立場を支持する人々も存在します。
これは、医療への期待や信頼が依然として一部の人々にとって強いことを示唆しており、医療機関や医療従事者に対して、患者の意向を尊重しながらも、適切な医療提供とコミュニケーションが重要であることを示唆しています。
延命治療とは
老化や病気によって生命の維持が困難になった患者に対して、医療的な措置を用いて一時的に生命を維持する行為を指します。
延命治療では具体的にどういった処置が行われるのでしょうか。
● 心肺蘇生
心臓や呼吸が止まった場合の蘇生処置を行います。心臓マッサージ、心臓への電気ショック、人工呼吸などを行います。一般国民の希望する治療方針について69.2%が望まないと答えています。
● 抗がん剤、放射線治療
副作用はあるものの、多少なりとも悪化を遅らせることを期待して、抗がん剤や放射線による治療です。一般国民の希望する治療方針について41.8%が望まないと答えています。
● 抗生剤投与
終末期では感染症を起こす可能性があります。抗生剤治療で改善しない場合さらに強い抗生物質を使用するため、抗菌薬長期投与時の副作用は、臓器障害を起こすリスクがあります。
● 点滴
「重症」、「緊急に対処が必要」、「栄養や水分の補充が必要」など、直ちに薬の効果を発揮させることが必要な方に行います。 具合が悪くて薬を飲むことができない場合でも、薬を体内に取り入れることができるのが点滴です。一般国民の希望する治療方針について口から水を飲めなくなった場合の点滴は48.5%が望むと回答しています。
● 中心静脈栄養
口から十分な栄養をとれなくなった場合、首などから太い血管に栄養剤を点滴します。中心静脈栄養を使用しているときに起こりやすいトラブルは主に感染症です。一般国民の希望する治療方針について57.5%が望まないと回答しています。
● 経鼻栄養
口から十分な栄養をとれなくなった場合、鼻から管を入れて流動食を入れます。鼻やのどに痛みや炎症、誤嚥性肺炎や窒息などを引き起こすリスクがあります。一般国民の希望する治療方針について64.0%が望まないと回答しています。
● 胃ろう
口から十分な栄養をとれなくなった場合、手術で胃に穴を開けて直接管を取り付け、流動食を入れます。胃ろうの平均的な余命は約3年と考えられています。一般国民の希望する治療方針について71.2%が望まないと回答しています。
● 人工呼吸器
呼吸ができにくくなった場合、気管に管を入れて人工呼吸器につなげます。言葉を発声できなくなる場合もあります。一般国民の希望する治療方針について65.2%が望まないと回答しています。
【引用】:厚生労働省 人生の最終段階における医療に関する意識調査 報告書
人それぞれ異なりますが、ひとり身の方の多くは、医療方針について延命治療を望まない傾向にあります。
なぜ病院は延命治療を行うのか?医療現場の実情
1. 本人の意思がわからない
本人が口から食事ができなくなったとき、医療従事者から中心静脈や胃ろう等による延命治療をするかどうかの選択を迫られます。
本人の意思がわからない場合、家族は対応に困ります。
延命治療を断って死なせてしまうと責任を感じるため、延命治療を選ぶ傾向にあります。
2. 日本の医療は「延命至上主義」
日本の医師は、患者の命を1分1秒でも長く生かすよう教育を受けているため、延命を優先してしまいます。
また、ご家族の中にも、「どんな状態でも生きていることが大事だ」という強い信念を持っている方もいるため、延命措置が一般的に行われる一因となっています。
3. 医療制度、年金制度の問題
病院経営が厳しいため、収益を確保するために高額な診療報酬が得られる医療行為が優先される傾向があります。
これには高度な医療技術や特殊な治療が含まれ、その結果、延命治療のための高額な医療機器を使用する治療が増えることがあります。
また、親の年金に依存している家族にとって、親が亡くなると収入が途絶え、生活が困難になる可能性があります。
特に経済的に困窮している場合、親の年金が生活の重要な支えとなっているため、親の延命を希望することがあります。
なかには、自らは働かず、寝たきりの親の年金を頼りに生活し、親に対して延命治療を際限なく求めるケースも少なくないようです。
このように、病院経営の厳しさや診療報酬の影響が延命治療の増加につながり、家族が延命治療を望む背景には経済的な問題や社会的な課題が複雑に絡み合っています。
4. 訴訟リスクの回避
医療従事者が延命治療を選択する背景には、家族からの訴訟リスクが関係していることがあります。
訴訟リスクを避けるために、医療従事者は場合によっては、必要以上の治療を行うことがあります。
その結果、家族から「必要な治療を受けられずに亡くなった。」と訴えられるリスクをできるだけ減らせられると考えられています。
こうした将来のトラブルや訴訟を避けるために、延命治療を勧める医師が多いのではないかと考えられます。
自分の最期を自分で決める!終末期医療に関する意思表示書を作成しよう
生命の危険が迫る状況では、一時的に意識を失ったり、意思能力が低下した状態になるため、直接本人の意思を確認することが難しくなります。
このような緊急事態に備えるために、意思が確認できるうちに「リビングウイル=終末期の医療に関する意思表示書」を作成しておくことが非常に大切です。
ご家族やご親族に頼ることができる方は、日本尊厳死協会が発行しているリビングウイルで十分だと思われます。
あとは、医師とご家族でリビングウィルに示された指針に従い、具体的な治療内容についても話し合いをすることができます。
しかし、ご家族がいない方や家族に頼ることができない方の場合は、リビングウイルを第三者に託すことになります。
託された第三者は医師から、死に関することの同意や判断を求められても、当然判断がつきませんし、判断するべきではありません。
そのため、「尊厳死」と「終末期の医療方針」に関するご本人の意思を明確に表明した、法的な信頼性が高い公正証書に基づいた意思表示書を作成することは非常に重要です。
この終末期の医療に関する意思表示書は、ご本人が望む医療処置や治療方針、尊厳死に関する具体的な希望を詳細に記載した書面です。
公正証書の形式で作成することで、法的な信頼性が高まり、将来の医療決定においてその意思が尊重されます。
また、医師や任された第三者、その他の関係者も、その意思表示書に基づいて安心して対応をすることができます。
最後に
家族が具体的な延命治療の内容やその影響を十分に理解しないまま治療を選択してしまうケースが見受けられます。
そのため、高齢者の方は、延命措置を望むのか、延命のための胃ろうなどの処置を望まないのか、自分自身の最期に対する希望を明確にすることが重要です。
意思を判断能力のあるうちに決めて、「終末期医療に関する意思表示書」を作成し、自分の意思をしっかりと文書化して、関係者と共有しておくことをおすすめします。
いざという時には、医師やまかされた第三者、その他の関係者があなたの希望に従って対応してくれるでしょう。